朝鮮族スタッフのある経験
韓国も秋が深まり、急に肌寒くなりました。こんにちは、マスターです。
やっとのことでの日韓首脳会談。
その現場であるソウルから、今日は韓国社会のことを少し書いてみようと思います。カラコンの話し、出てきません。
朝鮮族という隣人
Newsポストセブンに上記リンクのような記事がありました。簡単に言うと韓国社会では中国朝鮮族と呼ばれる人が冷遇されているという話しです。中国には少数民族という位置づけで韓国語・朝鮮語を話す朝鮮族という人たちが暮らしており、中国吉林省南部には現在、延辺朝鮮族自治州が存在しています。朝鮮族のほとんどが韓国の日本植民地時代に満州に移住し、独立後何らかの理由で韓国に帰国しなかった韓国人をルーツに持つと言われています。ですから現在彼らの国籍は当然中国籍となっています。
中国国内で朝鮮族の教育レベルは漢民族少数民族をすべてを含めても群を抜いて高いと言われています。中国語、韓国語はもちろん、日本語まで話せる朝鮮族の人も少なくないようで、実際に僕が知り合った何人かの朝鮮族の人はみんな日本語が多少なりとも話せました。一人はソウル大学の大学院で知り合い、日本語もできましたし、また別の一人は東京大学出で、今彼は日本に暮らしています。
さて、5年前くらいでしょうか。ある時期からソウルで食堂に入ると店員さんが少し違和感のある韓国語を話しているのが気になり出しました。外国人である僕ですら分かる違和感です。彼ら(だいたいおばちゃん、中には若い娘さんも)は朝鮮族の人たちでした。その頃、あっという間にほとんどの食堂に朝鮮族の店員さんがいるという状況になっていました。彼らは出稼ぎに来ていたのでしょう。そして店主の事情は、明らかにコストダウンです。人件費が安かったというわけで、逆に朝鮮族店員なしにはお店をやっていけない状況だったようです。
韓国社会における中国朝鮮族の位置づけとは何なのでしょうか?第一義的には同胞なはずです。中国人が華僑と呼ばれ世界のあらゆる所に暮らしているのはよく知られています。韓国人も同様に世界各国に暮らしています。海外に暮らす日本人の多くが会社からの派遣された駐在員だったりするのとは違い、韓国人は移住という形で、その国や地域に経済的基盤を築き、腰を据えて暮らしているのです。韓国では移住したことがどういう事情であれ、それを「移民する」と日常的に呼んでいます。
近年になって海外に移民したという韓国人が多いのが事実ですが、日本やアメリカへ移民した韓国人などは歴史も長く、今や3世以降の時代となり在日僑胞、在美僑胞(中国、韓国、ベトナムではアメリカを米国と表記せず美国とする)と呼ばれています。そして在日僑胞は「韓国語は上手くないけどお金持ち」例えば孫正義さん、在日僑胞は「アメリカ文化に馴染んでいて、英語が話せる」例えば女子プロゴルファーのミッシェル・ウィーみたいな割とポジティブなイメージを持たれています。
翻って、朝鮮族。残念ながら中国という国が持つネガティブなイメージ(まあ、経済大国にはなったのですが…)と結びついて彼らに対しては、韓国社会内でポジティブなイメージでは見られていないのが実情です。それが前出のリンク先記事。教育レベルが極めて高いにも関わらず、中国が経済大国になったにも関わらず、悲しいことに彼らは貧しい国から出稼ぎに来ている低賃金労働者のイメージで見られているのです。
朝鮮族訛りのスタッフ入社
そんな中、我がグループの中に朝鮮族の若い女性が就職してきました。彼女の韓国語は朝鮮族訛りがあり、また日本語も少しできる、愛嬌と童顔が特長の女の子でした。韓国人の女性スタッフたちと何の隔たりもなかったかといえば、そうではありませんでした。やはり社内でも彼女は韓国語ができる外国人という位置づけであったようです。(まあ「韓国語がまあまあ程度にできる日本人」も多い職場なのですが)
あるときデパート催事売場でアパレル販売をする仕事が舞い込んできました。私達の職場では、この仕事が入った場合、スタッフが日常の業務をこなしつつ、交代制で売場に出向いて販売をしています。チームワークがものをいう業務になってくるわけです。このとき皆が朝鮮族の女の子はデパート売り子スタッフにならないだろうと考えていましたが、どういうわけか彼女も売り子スタッフとして選ばれました。口には出さなかったけれど、この人選に対してみんなの中にちょっとした違和感があったのは事実です。もちろん、ちょっとだけなのですけれど。
僕もちょっと心配になりました。いや本人もちょっと心配になりました。彼女こそが韓国社会の中で朝鮮族が持たれているイメージについて誰よりも実感している張本人だからです。食堂ではなくてデパートで朝鮮族訛りの接客で毛皮を販売しなければならないのですから。
販売は始まりました。僕は気になって彼女の販売を視察することにしました。ところが初日のその日、彼女の表情には不安の陰のひとかけらもありませんでした。お客様がやってきました。上品そうな中年の女性です。彼女は堂々と朝鮮族訛りの韓国で接客を始めました。僕は中年女性客の表情に注目しました。が、予想に反して、売り子の不自然な韓国語を全く意に介していない様子です。そうしてお客様はマフラーを買っていきました。その後も彼女は何人かに商品を販売することができました。彼女は終始、堂々と振る舞っていました。
催事販売期間が終わり、朝鮮族の彼女は朝礼のときにスタッフの前に立ち、今回の販売業務に関して話しをし始めました。選ばれたときの不安な気持ち、韓国で自分にいつもついて回る朝鮮族というイメージ、そして今回のチャレンジに対する覚悟、そこで得られた自信。僕たちは感動しました。そして同時に、今まで彼女の心の内を推し量り、共にすることができなかったことを心から恥じました。
僕らは多様性の時代を迎えている
実は数年前、北朝鮮からの亡命者という知人が僕にこんな話をしました。
「もし今、南北統一をしても韓国の人は北朝鮮の人を差別するだろう。その時、それなら統一しない方がよっぽど良かったと思うことになるだろう」
とても残念な話しですが、一理あるどころか充分にあり得る話しだと思いました。現在、北朝鮮の若者は栄養状態も悪いので、身長も低く、当然財産もなく、現代社会、あるいは資本主義社会に適応できるだけの教育を受けてきているわけではないのが事実です。更に、もしも韓国で就職や結婚などとなれば、当然不利な扱いになるに違いありません。また北朝鮮訛りが彼らと韓国を区別する目安になるでしょう。そうなれば結局は一つになるどころか、それぞれが別々にかたまり合って暮らす極めて不均等で社会不安に満ちた国ができあがってしまいます。それでは誰も幸せになれないのは明らかです。
僕は今回その話を思い出しました。そしてふと、今回のようにデパートなどで朝鮮族訛りで堂々と接客をする雰囲気をどんどん推し進めることができたら、近い日に来るであろう時代の不安を少しでも払拭することができるのではないかと思ってみたりもしました。
外国人として、母国以外のところで暮らすことは容易ではありません。社会に上手く適応できなければなりませんが、敏感すぎても自信を失います。ほどよい鈍感力も必要です。そして今や日本にしろ韓国にしろ、自国の人たちだけで集まって暮らしていける時代ではありません。それが逆らうことのできない時代の流れである以上は、誰かは否応なしに開拓する役割を担うのです。
3年半ぶりに日韓首脳会談が行われました。このところ、再び近くて遠い国のようになってしまった両国関係。日本にとって韓国などどうでもいいという意見もよく聞かれるようになりました。しかし責任の所在はどうあれ、隣国同士の両国関係が顔を合わさないままに進んでいくことは、この時代的にも極めて異常なことです。そんな中で今回日本の首相もいい仕事をしたと評価したく思います。面倒でも結局いつか誰かが担わなければならない仕事だったと思うからです。
マスター
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